記念フォーラムに参加して
=日本の文化と特性を再認識=

                           代表世話役 太田博之

 平成24年1月下旬、読売新聞わいず倶楽部事務局からフォーラム開催案内のFAXが届いた。テーマは、平城遷都1300年記念「アジアコスモポリタン賞創設記念フォーラム」である。テーマからして難しそうな内容なのでどうしようかと躊躇したが、即座に現役時代の同期であり、学生時代に考古学を専攻した心友の顔が思い浮かび「一緒に行かないか?」と声を掛けると、「OK」の二つ返事で一緒に参加した。主催:奈良県、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)、後援:読売新聞社等、参加費:無料、場所:奈良県新公会堂 能楽ホールである。わいず倶楽部の受付で「参加者は何人位ですか?わいず倶楽部からの参加者数は?」と尋ねると、「全部で約400人、わいず倶楽部からは100人位です。」とのことであった。
 荒井正吾奈良県知事のフォーラム開催趣旨と主催者挨拶の後、基調講演は、スリン・ピッスワン氏(東南アジア諸国連合事務総長)とテレビでお馴染みのロバート・キャンベル氏(東京大学大学院教授)で、英語と日本語のごちゃ混ぜ状態の講演であったが内容は参考になった。ASEAN事務総長スリン・ピッスワン氏のこれからの日本への熱い想いや期待についてのスピーチには迫力を感じ、カンボジア協力平和研究所会長ノロドム・シリブット氏の東南アジアの平和と日本との経済協力と連携に対するアピールには熱意を感じた。
 特に、“日本人より日本語が上手い”と言われるロバート・キャンベル氏の『日本の歴史から見つめ直そう「個人」と「社会」と』の特別講演では、“明治以降、日本の文化的特徴の一つとして「個人主義ではない」「個性を軽んじる」などと言われてきた。しかし、明治以前には、「個」を認め、個を重んじ、一人ひとりの「個性」と「ポテンシャル(潜在能力)」を社会に活かそうとした人々がたくさんいた。日本には過去に学ぶことがあるのではないか?”と言う事例を挙げての問い掛けには共鳴することが多々あった。
 講演を聞きながら「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という言葉を思い出した。賢者は歴史に学び(本を読み知識を得る)、愚者は経験に学ぶ(自分の経験でしか物事の判断が出来ない、又は逆に理屈でしか物事が判断出来ない人)ということであろう。
 環境が大きく変った今日では、両者を足して二で割ったような人が求められているのではないかと思う。どちらかに偏ってしまうと肩肘張った理屈屋や意固地な人間になり、このような人ほど扱い難いものはない!ということであり、“歴史と現在を複眼的に見る”ことが大切であると思った。
 今、「大阪維新の会」や「大阪都構想」などが盛んに論議されている。内外の環境が激変した中で、ビジョンを示せず、保身や混迷を続ける政局、際限のない言い訳論議、国民との約束も守れない現政府等に対する警鐘であり、明治維新で命を掛けて活躍した改革・革命の志士の“志や覚悟”の欠如を示唆しようとしたのでないかと思われた。
 かつて知己(イスラム文化を研究してきた大先輩であるが…)と酒を飲みながら、「日本という国はどんな国なのか?」「日本人とはどんな人種なのか?」といった議論をしたことがある。アレコレ意見を交わした後、大先輩は「日本という国は、欧米や中東・アジアの歴史や文化を集約・混在させて創り上げた箱庭のような国だ」と言っていた。
 なるほどと思いながら、私は西洋の「ロゴスの論理」と東洋の「レンマの論理」の話を切り出した。簡単に言えば、「ロゴスの論理」は砂漠的思想(直線的な思考)である。「YESかNOか?」「生か死か?」「善か悪か」「行くか止めるか?」といった全てが二者択一の世界である。例えば、砂漠の国や地域では、選んだ行き先にオアシスがなく、水を得ることができなければ、全てが死滅することになる。太古の昔から「自分は正しい、相手が間違っている」「勝つか負けるか?」「取るか取られるか?」という争いが絶えないのも、ロゴスの論理に起因するのかも知れない。
 一方、「レンマの論理」は森林的思想(円環的な思考)である。この森林的思想や思考・文化を基に判断し・行動すれば、何処かで川や池・沼などで水を得ることが出来るし、動物や木の実などの食べ物も手に入れることもできる。従って、選ぶ行き先や方向も多種多様になるのである。
 森林の思想の下に育まれてきたのが「仏教」であり、八百万の神々なのであろう。「善」があるなら「悪」もあるし、「どちらも否定できない」こともある。このような多様性の中で選択し、決定し、行動するのが東洋の「レンマの論理」であり、お互いを理解し合い、認め合うことが日本の思想や文化の礎になっているのではないかと思う。
 よく「日本人は中々結論を出さない」「内容や答えが曖昧である」と言われるが、根本は森羅万象が全てであり、輪廻転生の概念や譲り合いの精神、考え方も十人十色なのである。西洋(欧米)の諸外国から「あーだ、こーだ」と背突かれても慌てることはない!あちらこちらの歴史・宗教・文化・風土・習慣等を丸呑みにせず、先ずは一旦受容し、アレコレ吟味・模索しながら日本流にアレンジし、より良いものを生み出す知恵と技術を持った民族であるからである。
 その根源は、地理的要因に依るところが大きいのではないかと思う。北から、南から、西から、東から日本に辿り着いた様々な民族が混ざり合い、醸成してきた日本独自の文化や風土・特性があるのである。しかも、周囲を海に囲まれ、民族が集まり、神も仏も混在する多宗教国家なのである。このような国は日本以外には無いだろうし、今後も誕生しないと思う。これが日本であり、日本人の「オリジナリティー」ではないかと思う。
 1300年の歴史を刻み続けてきた「日本という国と日本人の本質」を再認識すると共に、日本人としての誇りを感じたセミナーであった。

注)宗教に関する表現が一部ありますが、特定の宗教を意味するものではありません。